呼吸困難
 はじめに 呼吸困難感とは自覚症状のひとつで り、呼吸運動が不愉快な努力を伴って意識される状態で る。救急室においては、緊急処置を要する急性呼吸不全を伴う疾患を鑑別する一方、呼吸不全を伴わない胸痛、喉頭違和感、動悸などを呼吸困難感として意識している場合や、さらに心因性の訴えなどを除外する必要が る。従って、その診察に際しては、問診が非常に重要で る。
呼吸不全の一般的な臨床所見
呼吸数異常(≦6/分 or 30/分≦ )
頻脈 (120/分≦)
チアノーゼ、冷汗、振戦、意識障害

動脈血ガス分析値と臨床所見

Pa O2 40 Torr以下 ; 興奮、失見当識、不穏状態など
Pa O2 20 Torr以下 ; 昏睡、ショック、徐脈、チェーン・ストークス呼吸の出現
Pa CO2 基礎値から10−15 Torr蓄積 ; 傾眠状態、発汗、羽ぱたき振戦
             躍動性動脈拍動や高血圧などを伴う。
Pa CO2 基礎値から30 Torr以上の蓄積 ; 昏睡状態、時に乳頭浮腫が出現


臨床経過からみる大まかな鑑別診断および救急室における特殊検査・治療 

A 突発性; 発症時刻を(患者が)分単位で指定出来る
^ 胸痛有り  
  自然気胸  胸部X線所見にて確定
   処置)  胸腔ドレナージチューブ挿入を検討
         絶対的適応 ; 緊張性気胸、血気胸、両側性気胸、
                 慢性呼吸器疾患または急性呼吸不全に伴う気胸
         その他の場合は患者の状態、背景などから方針を判断する
 

  肺塞栓症  心電図(S氈@Q。 右軸編位など)
        胸部X線所見(血管陰影の異常、肺野の正常所見)
        可能なら換気・血流シンチ、肺動脈造影などにて確定
   処置)  ウロキナーゼ投与(例 24〜36万単位+生理食塩水200N点滴静注)
        ヘパリン投与  (例5000単位+生理食塩水20N静注
                   その後1000単位/時開始)

  心筋梗塞  心電図
    処置) 他項参照
 

_ 胸痛無し
  誤嚥性肺炎    問診および胸部X線・検痰(多種菌混在)にて診断
    処置  抗生剤投与(PC−G、ABPC、 CLDMなど)
  刺激性ガス吸入  通常の問診にて鑑別可能
    処置  気管支喘息の治療に準ずる
  溺水       関係者からの情報にて鑑別可能

B 発作性; 発症時刻を(患者が)時間単位で指定出来る
^ 喘鳴有り
  喘息   他項参照
  アナフィラキシー 問診にて診断
    処置)  重症例では心肺蘇生の処置に準ずる
         必要に応じてボスミン0.5J静注、ポララミン5J静注を反復
  気道内異物   問診、胸部X線、胸部CTなどにて診断
    処置)   可能なら喉頭鏡下にて除去 または気管支鏡依頼
  心不全  他項参照       
_ 喘鳴無し 
  過換気症候群 問診、動脈血ガス分析より診断
    処置)  ペーパーバッグ法

C 急性 ; 発症時刻を(患者が)日単位で指定出来る

^ 発熱有り
 @ 胸痛有り
   胸膜炎(胸痛または胸水貯留のための呼吸困難感)
      胸部X線、胸水検索にて診断
    処置) 原因菌に対する治療   胸水ドレナージを検討する
   脂肪塞栓症(微熱 骨折後2日以内)
      背景および3徴(呼吸苦、点状出血、意識障害)などより診断
    処置) 通常は酸素吸入にて経過観察 重症時はステロイドホルモン投与検討
   心外膜炎 心電図、心エコーなどにて診断
    処置) 循環器科医に相談する必要が る(他疾患鑑別、NSAID投与、ドレナ        ージの必要性など)
 A 胸痛無し
   感染性肺炎 聴診所見,胸部X線、検痰などにて診断
    処置) 原因微生物に合わせて治療方法を検討する
   COPD急性増悪  背景、臨床症状、動脈血ガス分析などより診断
    処置) 増悪の原因に対する治療(多くはウイルス性or細菌性感染症)
 
 

   敗血症性ARDS 臨床症状、胸部X線、動脈血ガス分析などより診断
    処置) 原因感染症に対する治療 ICUにおいて厳重な呼吸循環管理

   急性膵炎に伴うARDS   痛を伴う  膵炎の検査所見
      処置)  膵炎に対する治療  ICUにおいて厳重な呼吸循環管理
   急性間質性肺炎の増悪 特徴的な聴診所見、胸部X線・CT所見より診断
      処置)増悪原因の検索およびその治療
         ステロイドホルモンによるパルス療法(ソルメドロール1g静注)

   急性喉頭蓋炎  咽頭痛  吸気時に増強する上気道狭搾音 頸部側面軟線撮影
      処置)  ABPC投与 耳鼻科へ相談  緊急気管切開に備える
   その他 ギランバレー症候群(四肢麻痺を伴う)  破傷風など
   
_ 発熱無し
   肺胞出血症候群  通常背景に出血傾向が る 胸部X線・CT所見にて疑う
      処置)  出血傾向の是正 呼吸器科と相談 気管支鏡検討
   急性貧血     基礎疾患、血液検査にて疑う
      処置)  貧血の是正  
 

D 亜急性;  日〜週単位で症状が進行
     大量胸水貯留  胸部X線および胸水検索
      処置)  胸水ドレナージの必要性を検討する
     過敏性肺臓炎  経過、胸部X線・CTにて疑う
      処置)  通常は原因からの隔離にて改善する
          重症の場合はパルス療法  呼吸器科と相談 気管支鏡検討
     肺性心増悪  背景、臨床経過より疑う 胸部X線
      処置)  酸素吸入の適正化、著しい浮腫に対して利尿剤投与
     その他  癌性リンパ管症  癌性心嚢炎 など 
      処置) 入院管理

E 慢性進行性;  月〜年単位で進行 通常一般外来にて管理
  呼吸器疾患  COPD 肺線維症  肺胞低換気  肺結核後遺症
  心疾患    心筋症  弁膜症など
  その他
   尿毒症性肺 重症筋無力症 慢性重症貧血 粘液水腫など