ハブ咬症
ハブによる被害は沖縄県では年間約250名、本院でも30名程度の患者が受診している。咬傷時のファーストエイド普及、抗毒素血清の使用によって致命率はほとんどゼロに近い。しかし初期の処置がおくれたり不適切であった場合には後遺症で悩まされたり、血清使用ではアナフィラキシー、血清病の発生をみたり、筋膜切開の時期の決定と色々問題点も多いので上医と相談しながら治療にあたることが必要である。
『問診すべき事項』
a) 受傷時間
b) 受傷場所
c) 受傷部位
d) ハブの確認
e) 既往症...特に過去の咬傷の有無とあればその治療内容、アレルギーの有無
f) ファーストエイドの内容 (慌てて走り回らなかったか、緊縛はどのようなものでおこなったか、吸引はだれが、なにでやったか、切開は誰がやったのか、その他)の 確認
『理学所見』
-
vital signのチェック・・ほとんどが1時間以内の短時間で来院しているので安定している。
-
咬傷の局所所見・症状
-
牙痕の位置と数
-
疼痛の有無とその程度
-
腫脹の有無とその広がり
-
その他(発赤、出血、水疱・・)
-
全身所見・症状・・頻度は少ないが悪心、嘔吐、気分不良、腹痛、下痢、頭痛、複視などを訴える時がある。
-
『検査項目』(採血時刻の記載)
CBC ,生化学, 検尿の緊急検査で十分中等症・重症の場合には
尿中ミオグロブリン定性と定量を追加する
『治療・処置』
<外科スタッフをコールする。軽症、ハブ咬傷疑いでも必ずコンサルトすること>
-
血管確保と補液(L/R)・・健常上肢がよい。(尿量を1ml/kg/hr以上に保つ様に輸液量を調節する)
-
切開・吸引・・牙痕に沿って数ミリメスで切開し、吸引セットあるいはカットされた注射器で持続吸引する。
-
所見検査時に牙痕の上下に患肢腫脹の進行具合を経時的、客観的に追跡するために牙痕より近位5cm,10cm,20cm,30cmの各部位にマーキングしその部位の円周の長さをもって腫脹の目安とする。必ずカルテに図示し測定値を記載しておく。
-
ハブ血清静注後,15分毎に計測し30〜45分経過しても腫脹が進行するものは血清を追加する。
『注意事項』
-
緊縛は一般的に、毒が体に一気に入ってしまうという恐怖心から、末梢の阻血状態のことが多いので患者を診たら緩め除去する。
-
切開・吸引 咬傷後40分以内では有効とされている。切開時には解剖をよく理解して行うこと。
-
咬傷があってもハブの持つ毒が入っていなければ“無毒咬傷 dry
bite”であり、疼痛、腫脹がない
-
ハブ抗毒素血清の使用はレジデントが決定する。原則として疼痛・腫脹が局所にとどまりっているものは血清は使用せず、症状が進行するものは血清を使用する。
-
使用にあたっては皮内反応を行う。皮内反応が陽性・陰性いずれでもアナフィラキーシーは起こりうるので、即対応できる心構えで投与する。
-
腫脹と疼痛の進行具合を見ながら血清を追加投与する。
-
患肢の腫れが高度になるとコンパートメント症候群を来す。十分量の抗毒素血清使用と時にはタイミングを計った筋膜切開が必要である。
-
血清使用後10〜14日後に発赤、皮膚掻痒、発熱、関節痛、全身倦怠、頭重などの血清病を発症することがある。血清を使用された患者には必ず説明しておく。
-
一般の外傷と同様に破傷風抗毒素、時に抗生剤を投与する。
-
外来は水曜日外科外来に受診するよう説明しておく。
(参)
-
ハブ血清によるアナフィラキシーを生じた場合はエピネフリン(ボスミン)を0_.2〜0.5
mg 皮下注を行う。Bronchospasm に対してはアミノフィリン(ネオフィリン)をゆっくりD.I,Vする。
-
幼児のハブ咬傷にも成人と同量の血清を使用する。
(参)動物咬傷
-
破傷風の予防接種状況の確認
汚染が強い場合には抗破傷風毒素免疫グロブリン(テタノブリン,テタガム)穿通創のほうが感染の危険率が高い。
-
関節近辺の咬傷は関節内への感染の波及に注意をすべし。
エックス線撮影にて骨折や異物迷入の有無を確認する。
-
一般的処置
-
創縁のデブリートメント
-
洗浄(生食水やブラシにて)
-
縫合(ナイロン糸にて,8時間以上経過した創は開放創とする)
-
翌日の外科外来受診を指示すること
-
感染が強い場合,スタッフへコンサルトを
-
蜂咬傷
-
針が残っていたら,毒袋をつぶさないようにメスか爪で除去する
-
疼痛が強ければ,ステロイドとキシロカインの局注(3ml)が有効