熱傷患者の取り扱い

1.一般的注意事項

   熱傷患者の大部分は小児で、その大半は軽症である。救命救急センターでの処置後、帰宅するケースがほとんどであり、インターンの責務は重い。患者ないし両親の最大の関心事は瘢痕を残さず治癒するか否かである。初診時に熱傷深度の判定は可能であるが、時に専門医でも判断に苦慮することもあるので、予後については外来で経過を見ないとはっきりしないことを説明する。一般的には、2〜3週間で上皮 化した場合、最終的にはほとんど瘢痕を残さずに治癒するが、安易に予後について明言しないほうがよい。

重症度の判定は一般的には深度、範囲で行われるが、受傷原因、合併症の有無、年齢、受傷部位などを総合的に判断する必要がありスタッフに相談する。

 

2.重症度

a.熱傷面積

熱傷面積の算出には、

イ) 9の法則(成人)、

ロ) 5の法則(Blockerの法則)、ハ) Lund and Browderの法則、

           ニ) 手掌法(成人片手の全指腹と手掌が体表面積のほぼ1%)などがあるが、幼小児  

           患者にも応用可能なロ、ハを利用する(センターに常備しているsheetを参照事)。

           面 積を計算する時には、深度・度以上の部分を集計する。

b.熱傷深度

表の臨床所見を参考に深度を判定するが、実際には正確な評価は経過観察しながら行うことが多い。

 ・度を 浅達性と深達性に分けて分類するが、深達性は感染などで容 易に・度移行しやすく、保存的に

 治癒しても肥厚性瘢痕になりやすいため植皮術の適応となることが多い。そのため両者の判別は重要で

 あるが、必ずしも容易でない。

 

  表

    熱傷深度の分類 臨床所見

 T度 紅斑と浮腫、有痛性、知覚過敏

 ・ 度 浅達性 水疱形成、水疱底は紅色、有痛性

 ・度 深達性 水疱形成、水疱底はやや白濁、有痛性、知覚やや鈍麻

 ・度 無痛で水疱形成なし、黄色または羊皮紙様

 

 

c.判定

    熱傷の重症度判定は、面積、深度、受傷部位、年齢、合併症、既往歴等の因子を総合的に判断する

     のが正しい方法であるが、一般的にはburn index(=・度熱傷 面積%X1/2+・度熱傷面積%)が 

     10〜15以上を重症熱傷とする。入院の目安は ・度10%以上、・度2%以上とする。

 

d. 検査

    ・一酸化炭素中毒の検索:CO-Hbの測定

     ・胸部X線:肺水腫の有無(24時間以降に発現することが多い)

     ・電解質(K上昇)や腎機能,尿ミオグロビンなど

 

3.スタッフにコンサルトすべき症例

  a.入院を要する中・重症熱傷

  b.汚染された熱傷

  c.気道熱傷が疑われるとき

          ・顔面熱傷

          ・眉毛/鼻毛のちぢれ

          ・口腔内にすすや発赤

          ・痰にすすが混じる

          ・熱傷現場で意識障害があった

 

    d.顔面・手足・外陰・肛門の熱傷

  e.電撃傷

  f.傷害事件に絡む熱傷

  g.紹介患者

 

4.軽症熱傷の処置

 a.冷却

 冷却は疼痛・浮腫の軽減、鬱血・代謝の抑制を目的として行う。最近は、ほとんど の症例で冷却しつつ

  来院しているが、時間的には不十分のことが多いのでセンターでも30分から1時間は冷却する。流水ない

  し,氷水に浸したガーゼ・タオルを使用するとよい。

 b.創処置

 まず、異物は取り除き、0.05%ヒビテン液で消毒する。

 c.水疱の取り扱い

  イ)破損していないもの

   内容液を注射器で除去し、被膜と創を密着させ、その上にソフラチュールガーゼを おく。

  ロ)すでに破損しているもの

   被膜を除去後、ベスキチンWTMやカルトスタットTMを貼付し、その上にソフラチュー ルガーゼを 

    おくか、ソフラチュールガーゼを貼付後ゲンタシン軟膏またはバラマイシン軟膏を塗布する。         

    前者が疼痛緩和、上皮化促進効果とも優れている。

   創傷被覆材の使用に関し不明の場合は躊躇せず,上医へ相談する。

 d.感染予防

  イ)上記処置後乾ガーゼを数枚重ね軽く包帯する。

  ロ)全例に破傷風トキソイド0.5mlを筋注する。

  ハ)抗生物質は感染のサインがない限り投与しない。

  ニ)外来では原則としてゲーベンクリーム*を投与しない。

 

5.中・重症熱傷の処置

     輸液路を確保後、速やかに上医をcallし、指示に従って処置を手伝う。

      気道熱傷を疑ったら早めに,挿管を施行すべし。

 

6.特殊熱傷

 a.電撃傷

  組織の損傷は電気そのもののエネルギーによるものと、スパークの火花によるもの がある。救命救急室

   に搬入される電撃傷は高電圧による産業事故がほとんどで ある。その際、注意すべきは通常の熱傷と

   異なり見た目以上に組織損傷が広範なことであり、予想以上に大量の輸液を必要とする。通電に対し

   て血管が損傷を受けやすいので、後日血栓形成し筋肉の壊死を来すこともある。また感電中全身の筋肉

   が硬直し脊椎骨骨折を来したり、高所の作業場から転落して頭蓋損傷を起こすこともある。従って、  

   全身くまなく診察するとともに、速やかに上医へコンサルトする。

 b.化学熱傷

  日常使用されている家庭用消毒剤、漂白剤、洗浄剤で問題となることはなく、実験用 強酸、強アルカリ 

   や産業用の薬品で熱傷を来すことがある。まず大量の水で洗い流すことが先決である。一般にアルカリ

   が深部まで浸透し重症になる。

 c.CO中毒

    熱傷では一酸化炭素中毒が生じやすい

   症状:強い頭痛

     悪心・嘔吐

     意識障害・痙攣

   所見:ピンク色の皮膚は晩期所見

   治療:100%酸素・心電図モニター(心筋虚血のチェック)

      高圧酸素療法